クラカメ好きですか


ボロ市の宝石(ツェルトスーパードリナ2

 世田谷ボロ市は、年2回、1月と12月の15,16日に開催される地域住民のリサイクル市である。というか、近年の中古物ブームで見直され東京近郊にまでそのファンが広がり数十万人の人出を見る年中行事に変身している。
 今回紹介するカメラは二年続けてボロ市で入手し、カメラそのものへの満足度とともに写りの良さで虜になったツェルトスーパー・ドリナIIである。見た目は無骨でぎこちない印象を受けるカメラであるが、撮影を始めると手の中にしっくりと馴染みシャッターを切るテンポも速くなる。このようなものを相性の良いカメラというのであろうか?

 このカメラを初めて目撃したのは、五年程前のH田カメラの店頭である。ボディの右横からかんざしのように突き出した距離計のつまみが印象的である。レンズ名を見るとカール・ツアイス・イエナ・テッサーとあり、カメラ初心者であっても著名なレンズであることを理解できて次第に興味を持つこととなった。しかしながら、ライカやローライ等のミーハーカメラ(失礼)に触れるうちにドリナの類はB級品だという思いからいつの間にか忘れていたのである。

 露店に並んだこのカメラを見た途端、先年の印象がよみがえり少々痛んでいても何とかなるだろうと手を出してしまった。ボロ市の名の通り手に入れた時はファインダーも曇り、距離計はほとんど見えない状態であったのだが値段の安さに惹かれてついつい手にしてしまった。
分解は上部のネジを外すだけで簡単に軍艦部が取り外すことができた。しかしながら軍艦部内部の機構はバネとカムの複雑な組み合わせのカラクリそのものである。ちょっとでも手を出すとパニックが起きそうな顔をしている。メカニズムを理解することをあきらめ、単純なガラス素通し構造のファインダーと距離計の清掃と内部に僅かな注油・整備を施すことによって軽やかな操作性と明るいファインダーを蘇えらせた。レンズ及びシンクロコンパー・シャッターについても清掃を施したので往時の調子を取り戻すことができたと思っている。
 簡単な整備なのでさほどの成果も期待せずネガフィルムで試写をして驚愕した。正に世に言う鷲の目である。開放で撮った梅の花も浮き上がっている。サービス判プリントでも明らかに今時のコンパクトカメラとは違う結果であり、ボロ市の露店から宝石を発見した思いであった。

 後日のH田さんの鑑定では、私にしては過分な掘り出し物を手にしたようであり驚喜してしまった。キーワードは「シンクロ・コンパー」である。(笑)
 つまり、西側より高級品の代名詞であるシンクロ・コンパーユニットを輸入し、これを組み込んで西側に輸出したカメラが此の個体である。レンズの銘板にC.Z.Janaとあるのが西側向けでCarl Zeiss Jenaとあるのが東側向けということをこのとき教えてもらった次第である。
「これが高いんだよね。ウチに売る?」とのお言葉を固辞して今も私の手元に輝いているボロ市の宝石である。


 それはさておき、Jena入りが格好良いのは当然であるが、残念ながら商標戦争のため西側向けカメラでは使えなかったロゴである。この名前入りのものが有名であるため東側向け製品の前玉と交換したカメラが散見されるので注意されたい。まあ、撮影結果はまったく同じようであるが、好みで交換しても良いだろう。ちなみに、私のものはボロ市で同時に買ったベルテレというジャンクカメラのテッサ−前玉を入れ変えた見栄えの良いJenaタイプである。オリジナル前玉は勿論大切に保存している。
更に、次の年のボロ市においてもこのカメラを取得できたのは天佑神助と言うべきであろう。
 このように、ドリナは、奥が深くてなかなか面白いカメラである。ビッテッサ、ビトーとともにこの少数派の35mm蛇腹カメラを心から推薦するものである。







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