クラカメ好きですか


ジャパニーズ・バルナック(ペンF

 ライツ社のオールドライカの特許が効力を失った戦後、雨後の竹の子のようにバルナックタイプのカメラが日本を席巻した。ニッカ、レオタックスのように既に無くなった会社からキヤノン、ミノルタのように現在もカメラを作っている会社までもがライカもどきを作っていたわけである。これらのコピー製品は、ライカの機構を殆どそのまま参考にしているためにメカニズムに関する独創性は感じられず、ファインダーのアルバダ化のような小手先の改善が見受けられるのみである。それでも日本製はソ連製のごりごりとした感触と比べれば格段の品質であり市場でもそこそこの評判であるのだが。
 ところで、これらのバルナックコピーと比べまことに潔い独創性に満ちたカメラがあったことをご存じであろうか?私もつい最近入手するまで全く考えても見なかったのであるが、オリンパスが昭和38年より発売したオリンパスペンFがそのカメラである。

 きっかけは、大学時代の友人H君と交わした何気ない会話である。
「君は学生時代にペンFを使っていただろう。そのカメラはどうなってるの?」
それから数ヶ月後、平成11年の5月連休に久しぶりに再会するとそのカメラも一緒であったのである。「スローが粘ってるし、使わないから君の研究用に差し上げるよ。」という嬉しいお言葉。更に、オリンパスXA2というコンパクトカメラまでおまけに持ってきてくれたのである。

 ジャパニーズバルナック「ペンF」です。H君ありがとう

 早速、その連休中にスロー不調のペンFを慎重に開いて驚いた。ボディが三つのユニットに分離できるのである。軍艦部を取り去り、貼り革の下の五つのネジを外すとプリズムとミラー部が外れた。ロータリーシャッターを取り付けた四本のネジを取ると巻き上げレバーの付いた本体からシャッター部が分離できたのである。
 何というメンテナンス性に富んだ設計であろうか。各ユニット間の結合をネジ一本で実現してあり、実に簡素な、いわゆる疎結合である。ドイツ・アグファ社の電気駆動カメラ、セレクト35Mとは対極をなす構造である。この独逸カメラは、複雑な電気仕掛けをボディ全体に組み込んで自己崩壊をとげているのだが、ペンFは一眼レフという複雑な機構を巧みに機能分割して小さなボディに組み込んでいるのである。

 機械というものは、新調された時点で所定の性能が出るのは当然であるが、時間経過とともにメンテナンスの重要度が増してくる。設計時にメンテナンスビリティを考慮されているものとそうでないものは、十年を超える時間とともに歴然とした違いを見せるものである。ライブスティーム製作で世界的に著名な平岡幸三氏から歯車駆動機関車であるクライマックス製造では「製造、調整の容易さとともにメンテナンスの容易さを考えて各機能をブロック化して設計した。」という設計思想を聞き大変感心した記憶がある。
ペンFの分解の過程でブロック構造を発見し、20年ほど前に聞いたこの話が思い浮かんできた。
 話がそれてしまったが、初めての分解にもかかわらずシャッター機構までとり外しての清掃ができ、低速不良の不具合を直せたのはひとえにオリンパスの米谷(まいたに)氏の天才的な設計のおかげであると感心している。

     Fの花文字が素敵だと思います。

 今日も潤滑油で軽くなったメカニズムは、小気味良い軽快な音をたてて新緑の風景を切り取っている。標準の38mm/f1.8とともにOM・ペンFアダプターにより75-150mm/f4zoomも搭載可能になりしばらくこのカメラと散歩する機会も増えそうである。
 手になじむ小型のボディ、厚さもバルナック型ライカとほとんど違わない小粒の名機は、まさにジャパニーズ・バルナックと呼ぶにふさわしいカメラではなかろうか。本機にはストロボ用シューが無いのであるが、バルナック用バルブアダプターがペンFのために作られたかのようにぴったり付くのも偶然ではないような気がしている。
 更に後日、件のH君よりこのストロボ用専用シュー、露出計、革ケース、専用フード、フィルターが往時のままの状態で提供してもらい、完全なセットとして我が家に鎮座しているのである。


           38mm/f1.8は、なかなか鮮鋭です。


  <谷中散歩中に見つけた生き人形のかしら 38mm/f1.8>

 更に、中古カメラ屋の委託品からM42・ペンFアダプターを手に入れたのでプラクチカマウント、いわゆるペンタックス用マウントのネジ式レンズまでが使用可能となりソ連製の千ミリ、五百ミリの反射望遠レンズまでが戦列に加わるという鬼に金棒状態のカメラとなっている。このカメラでレンズ装着世界制覇も夢ではないのである。
ライカのLマウントを既に凌駕していると言っても罰は当たらないであろう。

追記
最近は、コシナのAF機能付きレンズ35-70mm、75-200mmを入手しペンFに装着した。こうすることで最新のAFカメラに変身してしまったのである。これほどまでに柔軟性のあるカメラとは思いもしなかった。(笑)

     オートフォーカスカメラになったペンF  







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