クラカメ好きですか


一眼レフを目指して(ビゾフレックス

 世の老若男女の中にはライカという言葉をご存じの方がかなりの数に上ると推測する。拙宅でも趣味では両極に位置する家人ですらライカをご存じであった。ただし、各論をご進講申し上げると藪蛇の恐れがあるので「世界で著名な良いカメラ」と説明するに留まっている。(笑)
しかしながら、ライカをご承知でも実際に使ってみた方は、現実には少ないであろう。ましてやビゾフレックスということになると一体どれほどの方が使ったことがあるのだろうか?
実は、この道に入って十年余、ビゾフレックス(以下、ビゾと記述する箇所もある)を使って撮影している人に遭遇したことは皆無である。
 ビゾを外に持ち出して使うのは大抵2-3月の小田急線梅ヶ丘での梅祭りである。ご近所であることとカメラ仲間で溢れているので持ち込みやすいのである。ところが、M3には微妙に反応するおじさん達もビゾを付けたM3には殆ど気づかないのである。「古い一眼レフのようですね」と声をかけられ、「ビゾフレックスです。」と答えると「ああ、そんなメーカーがあったっけ」と言う返事が来る場面に遭遇し、絶句したことがある。
出自正しいビゾフレックスがそのような理解をされているとは、オールドニコンを持ったおじさんの言葉であったのでショックは大きかった。(笑)

では、ビゾを語る前に、一眼レフの仕掛けのおさらいである。
撮影レンズから入ってくる画像を45度に傾斜した反射鏡で折り曲げて幾つかの仕掛けを経由した後、ファインダーから目視確認可能としたものが一眼レフの基本機構である。ミラーのからくりで見たままの情景をフィルムに写せるのが画期的なのである。左右逆転の画像を元に戻すためにペンタプリズムを使うというのは近年の贅沢なお話であるが、元々は二眼レフと同様に左右逆転画像を長い間見続けていたのである。

 レンズを通して被写体を見るというこの機構を距離計カメラの外付け装置としてコンパクトにまとめあげたものがビゾフレックスなのである。
カチャ(シャッター押下)、パタ(ミラーアップ)、カシーン(シャッター幕走行)という音を順次響かせて写真を撮るのである。また、後年、改良型としてクイックリターン・ミラーらしきものが導入されたものの、多くのビゾは撮影前の儀式としてミラーダウンというエネルギー供給作業が必須なのである。
 このように実に不便なものがビゾである。現代の自動カメラに慣れてしまった方々には耐え難い冗長さであろうが、へそ曲がりの私にとって頭の中の描画速度と同じ速さで動作が進行するビゾは琴線に触れるものがある。人間の思考速度というか、頭脳における映像処理と同期して動作する機械は意外や意外、体の一部のように感じてしまうのである。今後のマンマシンインタフェース設計上再考すべき事かも知れないと思いついた。(笑)
 超高速演算と人間の思考に合わせた超低速動作、両者のバランスをとって考えていくことがこれからのメジャーな発想の世界かも知れぬ。
脱線ご容赦。・・・

 ビゾを使って嬉しいのは著名なレンズを通して被写体を直視出来ることである。また、ビゾ用として設計されたレンズが実に興味深い性能を持っていることである。戦前のテリート200mm/f4.5という金属の固まりの如き重いレンズがある。古く焼けを起こしたようなレンズには正直言って何も期待をしていなかった。が、使ってみて驚いた。f5.6程度まで絞って使ってもピント合わせが意外に楽である。合焦点の変化が大きく、ビゾのファインダーも明るいという事が相俟って手動自動絞り一眼レフと遜色無い結果を出すことが出来た。撮影結果も現代レンズに劣らぬ写りであったのは言うまでもない。そのシャープさと素直なボケは、実用性に乏しいというものの本のコメントとは全く異なる結果だったのである。

 (テリート200mm/f4.5で小田急を撮りました。ポジより転写)(coolpix990)

 最近、エルマー65mm/f3.5を入手してビゾで使うことが可能となった。世田谷線の線路沿いにあるススキの穂を撮影したのであるが、秋の日に光り輝いている微少な穂の先端の一つ一つが印象通りフィルムに写されており驚いた次第である。

    (エルマー65mm/f3.5のポジより転写)(coolpix990)


<エルマー65mm/f3.5での立体感。NikonF601の分割測光を使って撮影。
       場所柄をわきまえぬとっておきの内緒の裏技である。(参考出品)>

 ビゾフレックスの製品体系は、あらゆる撮影ニーズに応えようとする滑稽とも思えるほどのライツの真剣さに満ちている。一眼レフが世界を席巻しようとは思いもしなかった時代に距離系カメラの弱点である望遠と近接撮影を補完するために生まれた創意工夫の産物がビゾフレックスであろう。
 しかしながら、その懸命な努力故に息切れしたのか、レンジファインダーを過信したためなのか定かではないがライカの進化はここで停止している。仮にビゾに注いだのと同じ情熱を一眼レフに注いでいたならば現在の日本カメラの隆盛は無かったかも知れない。このように大変微妙なシステムがビゾフレックスなのである。
 そういえば、いつの間にか我が家には1,2,3型のビゾが揃ってしまった。特に1型は中身の不足したビゾ鞄なる物を入手したものだからたまらない。3年がかりで完璧なセットにしてしまった。だが、1型はその重厚長大さのためおよそ実用性に欠けるのでオブジェと化しているのが実状である。2型は、1型の反動のせいかすこぶる使いやすい。(笑)

  これが噂のビゾ鞄の中身です。III型クロームを入れておきました。

 更に、バルナック用のスクリューマウント仕様ビゾも入手しライカIIIaと組み合わせた超小型一眼レフを仕立て上げた。小ささではペンFにかなわないもののM3よりもこの方が楽しく使えそうである。
 「ということは、基準となるペンFが一番偉いのかも知れない。」という奇妙な自己満足のコンテストも楽しんでいることをお伝えしておこう。







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