ポッポの煙
佐世保線を汽車に揺られて着いた先は、佐世保の駅である。終点が近くなると海の上に軍艦がちらほら、当然のことながら帝国海軍でなく当時進駐軍と呼んでいた在日米軍の艦である。灰色に塗られた船体は、いかにも戦う船という機能美を持っており心ならず見とれたものである。が、ここでの本題ではない。 佐世保には佐賀県牛津町を発祥の地とする有名なデパートがあり、ここに連れていって貰うのが当時何よりの楽しみであった。その理由は、模型売場である。武雄の町にある文具屋に毛の生えたような模型店とは格が違うである。 この売り場において手の届かぬ値段で鎮座しているのがHOゲージの模型機関車、しかしながらこの頃は興味がなく、ボイラーと蒸気エンジンのみが目に入っていた。生きた蒸気機関の初歩の初歩のセットであるが、オール真鍮製のセットは大変スマートで未知の分野の匂いを放っていた。アルコールを燃料とするボイラーは最も単純な丸胴のあぶり缶、エンジンは首振り、すなわちシリンダーを振ることで蒸気の吸排気通路を切り替える仕掛けを持ったオシレーティングエンジンと呼ばれるものである。 ところが、ボイラーには必須の安全弁がない。デパートの担当に日頃の勉強の成果を披露し、「安全弁が付いてないよ。」と抗議を込めて質問したところ、「ボイラーとエンジン間はゴムパイプで繋ぐので圧力が上がりすぎるとゴムパイプが外れて安全弁代わりをする。」とのことであった。その時点では納得したものの、今にして思えばメーカーの手抜き製品の何者でもないのである。蒸気を使った模型の安全対策は念には念を入れておく必要があったと思う。このタイプの模型が程なく姿を消した原因は、ちょっとした事故が続いたということにあるということを後年聞いたことがある。恐らく腐食したゴムがパイプを塞ぎ小さな爆発を起こしたのであろう。 20年ほど前に手にした西独製の定置型(ステーショナリー)エンジンやロードローラ模型のボイラーには、低圧にもかかわらず動作確実な金属製の安全弁が付いていた。これもお国柄であろうか。(1996.10.16) |
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