ポッポの煙
明日のお天気が気になって仕方ない行事には、遠足、運動会それに修学旅行がある。小学六年ともなると修学旅行も旅行らしい内容となり、一泊二日の行程で博多へ出かけることと決まっていた。残念ながら雨模様の小学校最後の修学旅行であった。長年の学校生活を通じて経験した泊付き旅行は、この博多一泊のほかに中学の南九州一周、大学の北九州工場見学旅行の3回である。従って、それぞれを印象深く覚えている。 行き先は、博多である。その夜は少し雨模様であったが、当時博多に住んでいた伯父が宿まで迎えに来てくれて夜の博多を案内してくれた。といってもまだ小学生の私であるから飲み屋に行くのではなく模型屋を数件回ったのである。その中の一軒には、HOゲージのEB電気機関車があったことを覚えている。更に印象深かったのは警箇神社近くの模型屋に見たこともない金色に輝く機関車がガラスケースに横たわっていた。煙突があるから蒸気機関車であろうが、お馴染みのピストンやシリンダーが見あたらない。当然、大きな動輪や連結棒もないのである。その代わりに小さな車輪と歯車の付いたシャフトが水平に延びておりその中央には蒸気エンジンとおぼしき可愛い機械が付いている。そして歩み板には大きめの手すりが付けられていた。この機関車が船舶用エンジンを搭載し歯車を使って牽引力を増大した「山の力持ち」ことSHAY(シェイ)であると分かるまでには十年ほど時間を要したのである。 複雑なエンジンとむき出しの歯車、この組み合わせでどうして動くのだろうと真剣に考えてしまった。同行の伯父に尋ねてもその知識はなかったと見えて明快な答えを貰うことが出来なかった。 その模型屋でお土産として何か買って貰ったのであるが、SHAYの魔力によって全く思い出すことが出来ない。 昭和52年に札幌へ長期出張した際、当時発売直後の45粍ライブスティームのSHAYを購入し念願の仕掛けを理解することが出来たのである。 木箱に収まった組立キットを二週間ほどかけて狭いアパートで完成させ、無事動いた時は長年の望みが叶って本当に幸せと思った次第である。当時二歳半の娘もこの頃は動くものに大変興味を示していたのでこれは将来ものになるとほくそ笑んでいたのであるが、何故か正反対になってしまった。幼児の時期に機械もので囲んでしまった反動であろうか、その次の世代に期待するのみである。
<アスター製のSHAY。独特の排気音でよく動きました。> 古い写真をミニスキャナーで取り込みました。
このSHAYは、アスターにとって初めての歯車機関車であったために随所に作りの荒さが目立ったが基本的な構造が良かったので手持ちの工具だけで組み上がったのには驚いた。マイナスねじの頭が随所に飛び出していたのは頂けなかったので後日六角のナットに変更してしまった。 ボイラーは、単純な丸胴炙り釜、過熱器を持たないため飽和蒸気を使った動力である。圧力が3.5kg/cm2であるので150度C程度の飽和蒸気であったろう。レギュレータを開くと最初は水を吹き出す状態が続くが、シリンダーが暖まると調子よく動いたものである。シリンダーは、亜鉛合金のブロックに砲金の筒を埋め込んだもので保温性があったものの打ち込みだったためブロックから抜けてしまってエンジンが止まるというトラブルに見舞われてしまった。結局全部分解し砲金の筒にロックタイトを付けて接着という手段で復活させることとした。この接着剤は、NASAが開発したとのことである。空気を遮断すると固着する性質を持ち、耐熱温度が摂氏150度まであるので飽和水蒸気のエンジンに使えるとの判断であった。大型ライブスティームのかしめ軸止めにライブ名人の平岡さんが推奨されていたことを思い出したのである。 その後数年の運転を行ったが、問題なく稼働してくれいたので修理は成功であった。 このSHAYは、平成七年に、新しい趣味としてその領域を広げてきたクラシックカメラの資金源として遠く東北の同好の士に引き取られていったのである。むろん、ギヤードロコ好きが変わったわけではなく、更に精密なメリーランドSHAY或いは5インチのOS製石炭炊きSHAYを庭に走らせるという目標を抱いていることは言うまでもない。ただし実現する可能性は全くなさそうであり、空想の庭園鉄道で終わりそうである。Nゲージの鉄道すら実現し得ない私なのだから。(1996.11.06)
<その後、といっても昭和57年頃組み立てたアスター製クライマックス(Climax)の疾走シーンです。2CHラジコンで制御して動かしています。>
歯車機関車に魅せられてその後上の写真の車輪6軸を歯車で駆動する6WDのクライマックスを組み立てました。当時所属していた横浜ライブスティームクラブの市が尾運転場における走行記録ですけど、プリントからハンディスキャナーで取り込んだので画質はご容赦ください。しばらく釜に火を入れていないので再調整の必要がありますが、ハイポイドギアを使った究極のからくり機関車でもありますので、いずれからくりアルバムに登場させる必要があることに気が付きました。(笑) シェイの写真をこのページに入れる際に思い出しました。(2002.3.9) |
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