からくり日記

1996年09月30日

発電機の磁石と鉄屑拾い

 自転車の発電器での漁業から次は発電器の磁石での鉄拾いの話である。
道路に一円玉や十円玉が落ちていても見向きもされぬ世の中になってしまったが、僕らの少年時代は、釘一本も真剣に探して拾い集めていた。
鉄釘のコレクションをやっていた訳ではなく、実はこれらがお小遣いに化けるのである。その頃、町のはずれに金属屑屋さんがあり、其処に金属片を持っていくと重さに応じて買い取ってくれるのである。商品としてポピュラーなのが鉄屑、価値があるのは銅、、更に値があるのが鉛である。これらの値付けの理由は、鉛は蓄電池用だとか聞いていたものの事実は定かではない。銅の値段が高かったのは確かである。昭和43年頃、大学3年だったと思うが、鉄道工学か電動機の講義の際に国鉄のリニアモータが話題になったのである。担当教授のM先生から「リニアには線路に大量の銅線のコイルが必要である。しかしながらこれを盗もうとする輩が多いため、この対策を考えると国鉄はリニアに積極的に向かえないのである。」と講義を聞いたことがある。そういえば、この時代まで鉄道沿いの電柱には忍び返しならぬ泥棒返しの鉄条網のボールを取り付けた区間があったと思う。
 話は再び昭和32年頃に戻るが、道路の屑鉄がお金になることを知った子供達は、更に多くの金属を集めるには磁石が一番であると思い当たった。
が、馬蹄型の磁石は見かけによらず非力である。仲間から、「自転車の発電器から取り出した磁石が最強だ。」という提案があって自転車屋の倅が自慢げに持ち込んできたとおもう。
 最近は、わざわざ分解して使う子供たちもいなくなったようでこの磁石を見ることもまれであるが、四つ葉のクローバーをそのまま柱状にした形状で中心にシャフトの通る穴が空いている、いわゆるおでんの竹輪麩みたいなものである。この穴に紐を通し、未舗装の道路をちこち引いて歩き回るわけである。強力な磁力のおかげで鉄が面白いように集まった。小川の中まで捜索の手を伸ばし、様々な鉄片を集めることも出来た。今となっては何が集まったか思い出せないが、圧倒的に釘が多く、ついで針金の類やトタン板等だったような気がするが、重さにおいて価値のある鉄塊は、ほとんど無かったようである。やはり、貧乏な日本であったのであろう。
 一方、皮肉なことに高価な銅や、真鍮等は、磁石に吸着されないのである。高価の金属ほど額に汗して働かねば手に入らないところに自然の巧みさ(笑)を感じてしまう。「赤がね」と呼ばれた銅は、銅線で見つかるのがほとんどであり、ずいぶんと真剣に探した記憶がある。真鍮類も手に入ると嬉しくてその色で金塊を見つけたような心境であった。その頃は、磁石は何故鉄しか吸着しないのか不思議で不思議で仕方なかったものである。大学時代の講義でこの理由を理解していたつもりであったが、改めて考えてみるとどうしてなのか思い出せない自分になってしまったことに愕然としている。(1996.9.30)







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