からくり日記

2001年12月15日

飛び道具の話

 武器と聞くと身震いしてしまう風潮がすべてとなってしまったが、私の子供時代(昭和30年前半)を考えると今ほどの状況ではなかったと思う。戦後間もないことでもあり周囲の大人達は武器の扱いを知っている人が殆どであった。従って武器に対して一般的な道具扱いだったかも知れない。武器アレルギーの現代のほうが武器に伴う事故や事件がずーっと多いのではないかと感じている。ということで、今回は身近にあった武器らしきものを思い起こしてみた。(汗)

 小学校高学年の頃、友人宅に遊びに行くと日本刀がある。目の前で見たのは初めてである。「持っていい?」、「いいけど抜いちゃだめだよ。」と云われつつ手にして驚いた。ずっしりと重くて「里見八犬伝」に代表されるチャンバラ映画での軽快な立ち回りシーンは本当かなと思ってしまった。中身を見ようと考えて一寸引いてみても抜けそうにない。「どうやって抜くんだい?」、「最初にぐっと力を入れないと抜けないよ。」
 これが鯉口という安全装置を知った最初であった。鏡のような刃面につい触れてしまったところ「駄目だよ、触ったところから錆びるんだよ。」と友人の叱責が飛び、指紋の清掃が大変であることを聞かされた。日本刀は触れてはいけないものであると認識した。彼の話によれば親の目を盗んで持ち出しては庭の竹を切っているとのこと、剣劇映画が子供達の遊びと直結していた時代である。
 しかしながら、このように微妙な日本刀を武士の魂であると云い、あらゆる武器の頂点に立つものであると持ち上げる風潮はおかしいと思うようになってしまった。竹か木の目釘1,2本で刀身全体を支えられるのか、目釘を金属にしたとしても関ヶ原の如き長時間の戦いに耐え得たとは思えないのであるが、いかがなものであろうか。
先日、三島市の佐野美術館の正宗展示を鑑賞に行ったが、吸い込まれるような刀身の輝きは武器というよりも歴史を超越した美術品であった。「いやー凄い凄い。」

 さて次は飛び道具である。実家の長押(なげし)に何十年間か不明であるが、弓が掛ったままになっていたが、家の解体後はどうなったのか数十年前に故郷を後にした小生にはあずかり知らぬことなので話はそれだけである。

 最後は、からくり道具として更に進化した空気銃の話である。節を抜いた竹筒に湿らせて丸めたチリ紙を詰め、棒で奥へ押し込む、更に同じ丸めたちり紙を筒元に詰めて勢いよく棒で押し込むとポンという音とともに紙が飛び出すという遊びを多くの人がやったことがあると思う。紙と紙の間の空気を圧縮することで前方の紙玉が飛び出すのである。この何でもない原理を金属で作り上げたものが空気銃である。
私よりも5歳以上の年上の人たちにとって空気銃は玩具の一種であったようである。その世代の居る家に遊びに行くと大抵空気銃があったものである。現在のBB弾銃の感覚である。我々世代が空気銃を手に出来る年頃に到達した頃には規制が厳しくなり見つかれば没収となってしまった。
 それはともかく空気銃の殆どは、銃の中ほどで2つに折れる中折れ式であった。折った銃身の断面には直径5-6mmの弾込め口があるのである。弾は先端の尖った鼓弾であり、唾を付けて込めると命中率が高まるとまことしやかに囁かれていた。また、銃身内には螺旋、いわゆるライフルが切られているとのことであったが確かめたことはない。高価な銃にはそのような仕掛けがしてあったのかも知れない。
 銃を折ることで銃身にリンクしたピストンで内部のシリンダーにある空気を圧縮し、これが弾丸の飛ぶエネルギーになるのである。その力は圧縮された空気の量に依存しているので中込式では自ずと限界がある。弾が当たっても雀が落ちないのは道理である。飛んでいく弾が見えたような記憶があるが、気のせいだったのだろうか。
中込式銃の性能を上げるには、ピストンの行程を長くするか、ピストンの直径を大きくし圧縮のエネルギーを増やす必要があるが、これにも操作性や携行性から考慮して現実味がない。となれば、圧力を増すには別の方法を考えるしかない。ということで生まれたのがポンプ式空気銃である。これは、近所のおじさんが持っていた銃であるが、小さなレバーを何回も往復して使用するのである。これで格段に性能が高いのだと教えてくれた。しかしながら、子供らには決して触らせてくれなかった。
 構造は、ピストン、逆止弁それに高圧タンクを組み合わせてエネルギー蓄積部を作り、引き金が引かれると高圧タンクから瞬間的に圧搾空気が銃身に流れ込んで鉛の弾を押し出すのである。効率のよい設計であれば弾丸が銃身内を滑空している間は空気エネルギーを供給し続けることになる。引き金に連動する弁の開き加減が製造の妙であろう。
 更なる強化策は、炭酸ガスや圧搾空気ボンベを装着するガス銃であるが、ここまで来てしまうとからくりの領域を越えてしまう。ましてや火薬を用いる本物の武器の領域に至ってはこの日記の本意でないのでこれでおしまいとする。(2001.12.15)







トップへ
トップへ
戻る
戻る
前へ
前へ
次へ
次へ