| 最近は、玩具の世界も世相とは裏腹に平和主義になったと見えて軍艦や戦車の類を見掛けなくなり機能美を感じ難いキャラクタが店頭を飾るようになっています。 昭和二十年代後半から三十年代にかけての子供時代の玩具と言えば、進駐軍の名残なのか飛行機、それも単発の戦闘機や双発、四発の爆撃機、当時まだ珍しかったヘリコプター、水上では、軍艦、潜水艦、陸上では戦車が多かったと思います。高価な玩具には色んなカラクリが仕掛けられていたようですが、我が家では、とてもその様なものを買ってもらえる余裕も無く、いつもは缶詰の空き缶の裏に様々な機械類をプリントした所謂ブリキの玩具が遊び相手としての主流を占めていました。 ところで、兵器だけが玩具の代表かと誤解されないように当時の玩具のその他の代表をあげますと、蒸気機関車、デッキの付いた電気機関車、キャデラック、シボレーとかの大型アメ車、パトカー、ジープ、更にはブルトーザが目につきました。これらの種類を見て分かるように、なんとまあ、機械マニア的なものが多かったことでしょうか。デパートには高価なものから安いものまで溢れており、デパートへ連れて行ってもらうのが楽しみでした。 今となっては意外に思えますが、宇宙に関する玩具の登場はもっと後年のことであって、僅かにSFの世界のロボットやロケットが出回っていたようです。 その時代に気になって仕方のなかった玩具を思い出してからくり的な解説を加えてみることにします。 まず最初は、砂車です。結局買って貰えなかった砂車ですけど何故興味を持ったのか良く分かりません。今もってそうかなと思うのは、大袈裟ですが、砂が上部の漏斗の中に入れられることで位置エネルギーを与えられ、羽根車に当たって落下する際にエネルギーの一部が回転運動に代わるというエネルギー不変の法則を原始的な玩具で見ることができることにありそうです。砂の動きが全く違った動きに代わるという不思議さに子供心が魅入られたのかもしれません。直線運動が回転運動に代わる動きに大部分の子供が興味を持つことはもと子供だった皆さんに容易に理解していただけると思います。足踏みミシン、蒸気機関車のクランクシャフトの動作、自動車エンジンの仕組みなど沢山ありそうです。 次は蝋燭の火が船を動かすというポンポン船です。最近、東急ハンズなどでたまに見掛けるようになったポンポン船ですが、製造しているメーカーが限定されているとみえてほぼ同じ形と大きさです。当時は、大小取り混ぜて、客船から軍艦にまで種類がありました。仕組みは単純で小判型の金属板の底に2本のJ形水管を溶接し、エンジンの完成です。これを船体に取り付けます。船尾から2本の管が少し出ています。エンジンの心臓、金属板は振動し易いように薄い金属板(というよりも箔)が僅かの隙間で小判型のあぶり板にかしめてあります。 運転は、水管に水を注入し付属の燃焼用皿に蝋燭を立てて着火すればOKです。着火後五秒ほどで独特の音を出しながら水の上を走り回ってくれるのである。 動く原理は、蝋燭に熱された水が蒸気となり水管から勢いよく吹き出す力です。蒸気となって排出された後は、膨張していた金属箔が収縮し水を吸い込みます。吸い込んだ水が加熱されて蒸気となり、吹き出すという動作を繰り返して船が推進するわけです。船の舵は二本の吹き出し口の間にあります。これを捻って方向を決めるのです。 兎も角、仕掛けは単純明快ですけど、その原理は奥深いと思います。しかしながら、この船はすぐに壊れたものでした。一週間と持たずに廃船になったものが殆どではなかったでしょうか。熱、震動、材質の脆さ、特に金属箔を金属板に圧着した部分にピンホールが出来て蒸気漏れが発生するケースが大半でした。金属疲労が原因と考えられますが、最近普及してきたチタンを金属膜にして利用すれば長持ちする玩具になるのではないかなと思いつきのアイデアがあります。カメラと同様に布幕ならぬ鉄の幕をチタン幕に交換しますということは絶対にあり得ない話でしょう。 大きな軍艦のポンポン船を買ってもらい喜び勇んで動かし始めたものの、二、三日で蒸気漏れを起こし動かなくなったことを今でも思い出してしまいます。 昨年、がらくた市でぽんぽん船を2隻入手しました。一つは小さなタグボート、もう一隻はあのタイタニックです。ところがどちらの船も同じサイズのエンジンなのでタイタニックがスムーズに動くとは考えられません。PL法など無視の金属板打ち抜きで気を抜くと手が切れそうです。一度も火を入れていないので健在です。ちなみにこれらの船は、インドからの輸入品でした。まともな写真がなかったので小さくしてごまかしています。(笑)
はずみ車の船も一世を風靡しました。いわゆるフライフォールに蓄えられたエネルギーを利用して様々な動作を与える仕掛けの玩具です。骨董市の店には必ず置いてある品物で、結構高い値段が付いています。しかしながら、この玩具は完成された玩具ではなく欠陥品に属していると思えてなりません。はずみ車のエネルギーで推進しようという考え方はいいのですが、はずみ車、ギア、軸受けの精度が低くメカニズム全体がお粗末なためにエネルギーの消耗が激しくて想定通りの効果はなかったようです。コストのかかる電池やゼンマイを避けて手っ取り早く採用した動力であったと思います。この様なエンジンを潜水艦に積んで抵抗の大きい水中で動かすという無茶なものも売っていました。スクリューとともに地上走行用の車輪も付いていたのは元来は水遊びの玩具ではなかったと思われます。 はずみ車駆動の玩具が完成したのは、昭和五十年頃と考えます。長女が生まれたので、はずみ車仕掛けのオレンジ色のブルトーザーを買ってきました、これは、一度動かすと二分近く動いていました。コマーシャルによると超高精度のはずみ車と軸受けの開発によって初めて完成した無公害の玩具とありました。最近見かけたことがありませんけど製造していないのでしょうか。 ついでですが、ブルトーザーも人気キャラクタでした。そのころは至る所で道路工事が行われており、泥濘にはまって自動車救出等には必ず出てきてトラブルを解決する強力な人気者がこの機械でした。 大小の車体があって、大物は、モーター仕掛けで運転手人形が作動し、エンジンの動きが見えるものでした。小は手のひらサイズのゼンマイ仕掛けがありました。祖母に小さなブルトーザーを買ってもらいかまどの灰の上を動かして喜んでいましたが、そのうちゴムのキャタピラが切れてしまい遊べなくなったことをついこの間のことのように覚えています。
最後の玩具は、ゼンマイ仕掛けで汽車や飛行機や車が動きまわるからくりレイアウト(箱庭?)です。様々なバリエーションがあるようですが、必要な要素は、汽車、飛行機そして自動車です。ものによっては遊園地の観覧車が付いていたような気がします。ゼンマイを捲くと、これらの乗り物がくるりくるりと動き出し、一時を別世界に遊ぶことが出来るのです。 私の場合は、汽車とトンネルがあればご満悦でした。ぐるぐる回る汽車が時折トンネルを通って見え隠れするこの玩具に限りない愛着を抱いたものです。(2003.3.16) |
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