ライブスティーム雑記帳

ライブスティームあれこれ


 これまで組み立ててきたライブの特徴を紹介してみました。シェイの組立からは既に20年以上経過し記憶も曖昧になってきましたが、我慢してお付き合い下さい。
記述がアスターの製品中心になってしまうのもこの世界の現状ですのでご勘弁願います。

(1)シェイ・クラスB(S.52.10頃完成)
 単調な札幌暮らしのポイントにと手にしたのがアスターのシェイでした。シェイはアメリカ人技術者シェイ氏が考案した機構を採用した機関車です。船舶用縦型蒸気機関ドンキーエンジンを機関車に搭載し歯車で減速して車輪を駆動しています。その強力さで森林鉄道用として使われおり、日本では戦前の台湾に導入され阿里山鉄道で檜材の積み出しに使用されていました。この鉄道でシェイは最近まで使われていたと聞いています。
 さて、待ちに待った木箱入りのキットが到着しました。真っ先に手にしたのが組み立て済みのエンジンです。掌に収まる程度の可愛い質感のある機械で生まれて初めて手にする精密な模型に感激しました。クランク軸は力を込めてやっと回る重さです。果たしてこれがスムーズに動くのか不安になったので問い合わせると、「大丈夫です。」という心強いお言葉でした。
 かの平岡さんの3吋半のシェイのクランク軸は一本のステンレス棒から3組のクランク、前進、後進カムの3気筒用に120度位相で削りだした芸術品でしたが、シェイはクランク軸の細かい部品を芋ネジを多用して組み立てたものです。この構造では完成エンジンで出荷する事が賢明であることを理解しました。また、シリンダーブロックは亜鉛合金であり、シリンダ筒は砲金製の0.8cm径パイプを圧入したものでした。
一方、新たな不安は亜鉛合金製の歯車です。ここは縦型三気筒エンジンからの駆動軸から90度位相を変えて車軸にエネルギーを伝える箇所です。シェイという特殊な機関車の割に安価な価格と感じていたので贅沢は云えませんが、消耗を考えるとこれはいただけませんでした。二次バージョンでは正式な歯車に変わったと思います。
ボイラーは一番単純な丸胴あぶり釜です。これで蒸気の供給は、大丈夫なんだろうか?馬鹿な先読みで悩んでしまいました。
 とはいえ、組立を開始すると寝食を忘れての感がありました。カミさんが何を云おうと娘が遊んでとせがもうと突貫作業になってしまいました。本格的なライブ作成を行っている先輩諸氏には申し訳ありませんが、プラモデル感覚で組み立てました。
が、そこはライブなので作業は単純ではありません。手間取ったのは駆動台車の歪みです。数回組み直すことになりましたが、根気よく取り組んだので2組の台車は大変スムーズな状態に仕上がりました。エネルギー供給源のボイラー組立も単純な丸胴のため一気に試運転へ持ち込むことができました。

拙いことに運転に必須の吸い込み式ブロワーの調達を忘れていましたが、試運転はアルコールの燃焼ガスに涙しながら強行してしまいました。点火後5分はアルコール臭と我慢比べです。少し圧力が上がりブロワーを開くと快調に燃焼を始め一気に圧力が上がります。安全弁が目前で吹くというのも初めてです。圧力計が3.5kg/cm2を過ぎるとシューッと吹き出します。この頃の安全弁はポップ式でないので吹き止まりが曖昧で漏れが続くので、弁の頭をポンと叩くと止まります。
 加減弁を軽く開きいよいよ蒸気をエンジンに送り込みます。前後進を繰り返すと油混じりの水が煙突から噴水のように吹き出し、白煙とは異なる異様な光景でした。
完成エンジンなので蒸気漏れがなければ動くのが当たり前ですが、それでもエンジンが回転を始めると感激しました。お馴染みの蒸気機関車の排気音とは異なり早い息継ぎのエンジン音です。これがシェイの息吹だと飽かず見聞きしていました。
 その時代から早くも二十余年です。東北の地に渡っていったシェイが今でも健在であることを祈念しています。

(2)JNRC12(S.53.1頃完成)
アスターの何周年記念かで発売された機関車で、大変格安でした。
ボイラーは水管のスミシス式です。弁はスリップリターンクランク式で押した方向に動くという簡便なものでした。大変安定して動く機関車でしたが、キットには幾つか問題がありました。アルコールバーナーにピンホール、重要などこかのネジ不足だった記憶もあります。品質管理が足りなかった感は否めません。9万円という安さのせいだったのでしょうか?

C12の組立過程はなぜか思い出せませんが、素直に作ることができたからだと思います。むしろ、この機関車のその後の運命が劇的でした。趣味がクラシックカメラに移っていた頃、国鉄OBの神戸在住・岡田さんという方に水圧ポンプとともにお譲りすることになりました。その翌年、神戸の大震災に遭ったのです。どのようになったのかなと心配していたのですが、後日自宅は壊れたものの岡田さんともども無事生き延びて大切にしているという連絡をいただき、今でも年賀状の交換が続いています。機関車そのものよりも我が家から去ったあとのことで印象深い機関車です。

(3)クライマックス・クラスC(S.57.8頃完成)
 この機関車は、既にホームページで紹介していますが、やはり平岡幸三さんの機関車に刺激をされていたので躊躇せず入手しました。もっとも資金繰りは苦労しました。(苦笑)平岡さんの作品を拝見する機会があり、その構造や、工作技術に感嘆してしまったのです。機会があればこの時の話を紹介したいと思っていますが、メモが見あたりません。
 この機関車を購入したのは、現在住んでる家が完成した年でした。まだ荷物が山積している中で工作を始めました。駆動台車のギヤの歯は楕円曲線でカットされた本格的なハイポイドギアです。このギアを使ったことで車高が抑えられスケール感が壊されていません。調整が一番困難なピストン軸と直交するメインギア及びスチーブンソン弁用カム部は組立済みでした。後日の対応最小にするアスターの賢明な選択だったと思います。
下回りの組立は、ベベルギア駆動の水圧ポンプや6軸動輪の調整に苦労しました。また、エンジンと蒸気パイプの結合が両端を切り落とされたパイプなので蒸気漏れを起こし易くてなかなかうまくいきません。要領を掴むまで数回やり直しました。設計ミスかなと思ったこともあります。
炭水車の台車まで駆動輪を配した6WD構成には力強さを感じます。下回りを結合すると何だか百足(ムカデ)を見たような気がしました。

 このように、完成までの工程は、メカニズムが複雑なこともあり大変工作を楽しめた機関車でした。おまけに、安楽な運転のため、ラジコンまで組み込んだのです。
ラジコンでの制御は単純なものにしました。加減弁は開いたままで弁の位置を前後に動かす1チャンネルだけの制御です。このやり方で大変調子よく運転することが出来るのは意外でした。前進位置をフルギアにすると煙突から青い感じの煙を吹き出します。まるで自動車の排気ガスです。燃焼ガスが高温なので潤滑油が煙室で燃焼しているようでした。ガスバーナーの取り扱いは難しそうだなと感じたのもこの現象からだったかも知れません。急激な運転でたまにバーナーが消えることもありました。
 やっと運転に慣れた頃、運転中に突然停止してしまいました。青ざめて原因追究をしたところ、ピストン棒とクロスヘッドの締め込み不足のため運転中にこの箇所が緩みピストンの全長が伸びてシリンダヘッドに当ったことが原因でした。ギヤードロコなのでついついエンジンの回転を上げてしまうので単純な締め込みだけでは緩みやすいのではないでしょうか。いずれにしろ、中途半端な工作に起因するトラブルです。結局エンジンを分解(ということはボイラーも外すのです)となり、ロックタイトによって確実に結合をしました。先日、5,6年ぶりに復活運転を試みましたが、20年近く前の修理にも関わらず良好な結果を得ました。
 この機関車の弱点は、やはり燃料がガスであることです。燃料注入後しばらく静置してタンク内が安定後点火するのがノウハウであることに気付くまでは不安定燃焼に泣かされました。煙室から点火するとプォーッという音を立てて燃焼します。この音が出ると好調に燃えている証拠です。
今年発売予定のC622のガスバーナーは大改良されており、この音を立てずに効率よく燃えるそうです。その出現を期待しています。
 この機関車を組み立てた20年前は、横浜ライブスティームクラブ(YLSC)に所属して市が尾や緑区の運転会場まで長躯する元気がありました。クライマックスは20両以上の貨車を牽引してクラブの線路を疾走していました。アスターのビデオに登場したこともあります。デザイン的にも機構的にも完成された素晴らしい製品いや作品だと思っています。ビデオは行方不明になっております。

(4)JNR・9600(2002.9.22完成)
 20年ぶりに作ったライブです。その顛末は製作日記に紹介してありますのでこれ以上記述することもありません。この製作で古い趣味をすっかり復活させてしまいました。ライブを零から設計して完成させる技量など持ち合わせていない私には最適の製品というかメーカです。アスターにはこの意味で更に様々なオタクな製品を送り出してもらいたいと思いました。何かものを作っていることで心の安寧を保てる私には頼るべき会社の一つです。
今回のアスター製品は、以前のものとは格段に品質が上がっていると思いました。部品個々も確実に組み立てられるように工夫してありました。このような精密機械領域は日本の得意とするところであり、よその國の真似できないところではないかとクラシックカメラの修理とあわせて感じています。アスターには更に頑張ってもの作り文化の推進役になって欲しいと思っています。
付け忘れましたが、このキットで気に入らないのは、私の技量不足かも知れませんがドレインバルブとその効果です。北海道型では改善されたと聞いてますが、40点でした。

(5)JUMBO(2002.9.21完成)
 これも紹介済みです。初めての英国型機関車です。小さくて簡単だろうと油断して組み立てたところ2カ所ミスをしてしまい動き出すまでに大変苦労しました。できあがってみると大変安定して動いてくれます。外国ではこの機関車の運転室を本物同様に工作しているものがあるようです。HOゲージ的な精密工作のベースに使える機関車かも知れません。次のステップの課題として楽しみに残しておきます。(2003.8.2)

写真は、アスターの古いカタログからコピーさせてもらいました。







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