ライブスティーム雑記帳
畳の上の水練になりがちですけどたまには技術的な観点でライブスティームを眺めることとします。 渡辺精一さんの本の古い版ではかなりのページを基礎的計算に割いてあった記憶がありますけど、S.57の本ではかなり簡略化されおり、さほど感激しませんでした。が、昔の記憶にも自信がありません。自分の勉強も兼ねて新版から索引させてもらいました。
ライブを入手または製作して一番気になるのは、その馬力です。本来は基本設計から次第に詳細な設計へ進めていくのですが、幸いなことに蒸気機関はすでに完成された技術なので経験則を元に途中経過を省略し基本設計から一気に細部設計へ進めることができるのです。どのような機関車を作りたいかを想定し、必要なデータを基本設計数値表から拾うことで短時間である程度の姿が描けるようです。 ただし、20年ほど前、平岡幸三さんに設計と製造時間の比率を伺ったところ著名な89mmゲージシェイの製作では設計1,500H、製作500Hというザックリした値を聞かせていただきました。全くのオリジナルから始めるとこのように膨大な時間が設計に費やされる反面、製造は意外に少ない時間であることに驚きました。「製作に入るとホッとします。あとは作るだけで、動くことは分かっていますから。」とお聞きして流石は達人と思いました。この感覚はソフトウェア開発にも通じるものと思いました。
(1)エンジン出力 さて、蒸気機関車のパワーの話です。自分の機関車が一体どのくらいの力を出せるのか数値で考えてみます。 蒸気機関車は、圧力を持った蒸気がシリンダに導かれてピストンを押し、その力はピストン棒、クロスヘッド、主連棒を介してクランクへ伝えられて動輪を回し、動輪とレール面との摩擦力による反作用で自身が走行し列車を牽引します。まずはピストン棒の力から考えることとします。 普通の2気筒機関車のシリンダーの出力、シリンダー引張力は下記の式で表されます。ここで重要な要素はピストンの直径、ストローク長、動輪の直径、蒸気圧です。 特にピストンの直径が二乗で効いてきます。
Tc=D2xSxP/W
Tc:シリンダ引張力(Kg) D:シリンダ直径(cm) S:ピストン行程(cm) P:ピストン圧力(Kg/cm2) W:動輪直径(cm)
Pは通常ボイラー圧力の85%をとりますが、模型の場合は更に内部抵抗が大きいと見なして60%を使っています。 上記式は2気筒の計算式なのでC53やフライイングスコッツマンのような3気筒の場合は1.5倍、マレー等の4気筒の場合は2倍して適用します。
Tcはシリンダーが発生する力ですが、この力が実際に牽引する力、連結器引張力ではピストンリング、パッキン抵抗、クロスヘッド摩擦、更にはクランクピン、車軸摩擦によって効率が低下した結果が実際のエンジンの出力です。ここでは機械効率を80%と見なしています。また、蒸気機関車と炭水車重量も連結器引張力におけるロスとして取り除くこととなります。模型機関車で通常用いられる平軸受けは自重の1/20の力で走行させることができるので自重の1/20を差し引く必要があるります。
連結器引張力Tdは次の式で与えられます。
Td=Tc×e−Bx1/20
Tc:シリンダ引張力(Kg) e:機械効率0.8 B:機関車重量
(2)ボイラー出力 一方エンジンに所定のエネルギーを与えるボイラーの設計数値を考えます。 古い渡辺さんの本には石炭やアルコールの熱量、ボイラーの材質と熱伝導率、ボイラー型式による表面積の差異、供給できるエネルギー量等中学生でも興味を引くように記述してあった記憶があります。設計とはあらゆる要件を固めながらある妥協点に収斂させるものなんだと何となく理解したような気がします。 新しい本には結論めいた数式を述べてありますので読み物としては面白くありませんが、こちらを索引させていただきました。ボイラ馬力についてはだいぶ割愛していますのでまた補足することといたします。 ボイラの設計は経験則に則った先人の表があり、これを適用して設計することが普通のようです。 目安としてのボイラ馬力の一般式は次の通りです。気休めに過ぎないかも知れないとは著者の渡辺さんの言です。
ボイラ馬力=CxG/(1+G/Hs)
G:火床面積(m2) C:木炭の場合10、石炭の場合11-12 Hs:伝熱面積(m2)
以上のごとく普段は考えたこともない数式を並べてみました。ちょっと中途半端な話で終わってしまいましたがご容赦下さい。後日手直しするつもりです。皆さんのお持ちの機関車は果たしてどのような力を秘めているのでしょうか。概算してみるのも楽しいと思います。手持ちの機関車を事例としてそのうち計算して載せることにいたしましょう。でも、何時になることやら(汗)(2003.8.12)
参考文献:ライブスティーム(模型機関車の設計と製作):渡辺精一著:誠文堂新光社 |
|
|
|