からくり日記

2004年07月23日

コンストホンテイン

 江戸からくりといえば木製歯車や鯨の髭ゼンマイを多用した機械ものが殆どですが、大気圧を利用した自動噴水式卓上洗盃器(コンストホンテイン)というものがありました。この存在を知ったのは30年ほど前に中央大学出版会が出した立川昭二先生の「からくり」という本を読んだときです。説明もなく九谷焼の洗盃器の小さな写真と内部構造のイラストがありました。何気なくそのイラストを目で追うと「これは、素晴らしい、自動的に吹き出す構造になっている。」と一人で喜んでしまいました。「これなら、とりあえず作って実験してみよう。」と転がっていたヤクルトジョアの空きカップとストローを集めエポキシ樹脂系接着剤で作ってみました。実験は大成功。たったこれだけの材料で見事にコンストホンテインが再現でき、図面を見ただけでこれを作った私は何て素晴らしいのだろう(笑)とほくそ笑んだのですが、当然だれも誉めてくれません、カミさんもちらっと見て「珍しいわね」でお終いです。
それからあっと云う間に30年近い時間が経過してしまいました。ジョアのコンストホンテインを当時乳飲み子だった長女が小学校に入ったあかつきには夏休みの自由研究に仕立て上げてやろうと思っていましたが、その時代にはすっかり失念しておりました。
 この珍しいからくりを目にしたのはこの間三度だけです。
二年ほど前東京12chの「何でも鑑定団」に四角の漆塗りのコンストホンテインが出品され程々の値付けがされていました。
やはり同じ頃、金沢でだったと思いますが、九谷焼の洗盃器の本物を見ました。これは素晴らしいと思いました。
で、つい最近のことです。近所の書店で「つくって遊ぶ!からくり玩具」という本を見つけました。最近NHK教育テレビで放映中の趣味悠々という番組の教科書です。この中にコンストホンテインを作るという記事があります。放映は8月23日ですが、江戸からくりを代表する作品を自分の手で作るのもいいなぁと今から楽しみにしています。この項を書いたのも実はこの本を見たのがきっかけです。これ以外にも様々なからくり製作を紹介してあって興味のある方はご覧になったらいかがでしょうか。
江戸文化の重鎮で木工の大家、経堂・酔考氏には是非自作していただいて周囲をあっと云わせて欲しいと思っています。

 このからくりの動作原理は、上部の水槽から下の水槽に滴下する水が自分の容積分の空気を下部の水槽から押し出し、押し出された空気は上の水槽にパイプを通して移動します。上の水槽ではその分量だけの水をノズルを通して空中に排出して噴水になります。噴水の水は最上部の受け皿からパイプを通して下の水槽へ滴下する水となってこの動作を続けます。この運動は上の水槽の水が下の水槽に移動し終わるまで続きます。この動作が一種の永久運動に見えるから不思議なものです。この噴水は水の位置エネルギーを空気圧に変換した力で動作しているわけです。この微妙な力を利用する先人の知恵に脱帽してしまいます。
この噴水のように自然界の原理を利用して一種の錯覚を引き起こし、観客をあっと云わせるのがからくりの醍醐味のような気がします。歯車を使うからくりよりも液体や大気圧、引力を使ったからくりに一種の凄みを感じるのは、人間に見えず手に触れられないものを原動力にしているからなのでしょう。水銀を使った唐子の宙返り人形の技は数百年前に作られたものとは思えません。この巧みさを見るにつけ江戸の文化は素晴らしいと思います。(2004.7.21)







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