からくり日記

2004年12月08日

変わり種エンジン(スターリングエンジン)

(からくり鉄道のジャンルかなと思ったものの、このところからくり工作シリーズに入れ込んでいたので結局ここに書きました。非体系的写真にはご容赦下さい。)

 ライブスティームの権威の方々には既にご存じの話だと思いますが、熱だけで動く外燃機関があります。200年前スコットランドのロバート.スターリングという人物が発明したスターリングエンジンです。子供の頃、独逸が潜水艦用エンジンとして開発した過酸化水素を燃料とするワルターエンジンや、今回のスターリングエンジンという言葉にロマンを感じてワクワクしたことがあります。原子力機関がこの夢をぶち壊してしまいましたけど今でもこれらのエンジンの名前を聞くと懐かしい気持ちがわき上がります。
スターリングエンジンがライブ工作の一ジャンルにあることやハンズなどでも数種類の模型が細々と販売されていることは承知していましたけど、価格の高さもあってなかなか手を出す気が起きませんでした。ところが、つい最近学研から「大人の科学シリーズ」としてスターリングエンジンの組立キットが販売されました。迂闊にもこのところ「大人の科学」なるシリーズを無視していたものだから気が付きませんでした。価格は9,800円と子供が購入するにはちょっと高価です。その意味では大人の科学であります。(笑)


学研のキットといえばその昔の「XXの学習」などの付録教材をイメージされるかも知れませんが、どうしてどうしてオール金属製エンジンによって自動車、発電機、扇風機を駆動するという本格的なものです。格好のホームページネタですから落ち着いて作ることにしました。空気の膨張収縮エネルギーを使うわけですからその力にはさほど期待していませんが、シンプルな構造でスターリングエンジンをまとめるという学研の技術陣に敬意を払ってここに取り上げました。

       <整然と入れられた部品>

また、簡単なギア式クラッチで三つの機能を切り替える仕掛けは、私の持つスティームロードローラー蒸気消防自動車とよく似ており、まるで独逸玩具式なので気に入りました。

    <クランクとクラッチを組み立てました。>

発電機はモーターを利用して発光ダイオードを点灯するという可愛いもので、手で回転しても赤い光を発します。扇風機は4枚羽根のブレードで自動車の前面に付けるものだからまるでプロペラ自動車です。肝心の自動車機能は、よく見るとエネルギー源のアルコールランプが飾り台にあるため自走できない構造です。不思議に思って説明書を読むと自走のためには炎であぶるシリンダーに熱を蓄積する真鍮製の蓄熱器(コンデンサー)を付けるとありました。安全のためにこのカバーまで付いており、この裏には断熱材を貼り付けるという凝りようには驚きました。しかも台方外すとカバーが自動的に閉じるようになっているのは、流石に教育教材を長い間出してきた会社だと妙に感心しました。
ただ、飾り台座の仕上げがアルミ板をカットしたままなのか危ない手触りです。きっと誰かが手を切るだろうなと余計な心配をしてしまいました。部品の全体にこの感触があるので紙鑢などを準備して金属の縁をさぁーっと磨くことをお薦めします。
肝心なシリンダーですが、ディスプレーサーという気体移動のための高熱側ピストンは試験管状のガラス製です。一方パワーピストンは真鍮のピストンに高分子物質・テフロンのようなものを塗布して密着性を高めシリンダーは真鍮製のようです。油は絶対に禁物と記述してありましたが、エンジンの力が小さいのでライブスティームで使用しているシリンダーオイルは粘着性が高く不合格なんでしょう。確かに油無しで軽やかに動作するのでよく考えてあると思いました。

   <コーティングされたパワーピストン>


エンジンの仕組み
 学研の模型の詳細は、そのサイトに説明を譲ることとして、スターリングエンジの仕掛けを自分なりに考えてみました。
この模型を眺めてどうやらエンジンの仕組みをかなり誤解していることに気がつきました。この際古典的なこのエンジンを勉強してみることにしました。まずgoogleで検索して驚きました。出るは出るは、これだけ教材や趣味として取り上げられている模型アイテムは少ないと思いました。懐かしのカルノーサイクルを忠実になぞるエンジンなので教材に最適なんでしょうね。一つ一つのサイトが大変真剣に取り組んであります。様々なエンジンの形式が存在し、今でも高効率化を目指して開発が続けられていることも知りました。このようなことを意識していなかったのは、「からくり劇場」の興業主として失格だなと反省しました。

 このエンジンを自分なりに理解して整理してみました。基本は、シリンダー内の気体の膨張と収縮を物理的な力に変換して回転力にすることです。内部の気体の量は一定であり、蒸気機関のように外部から供給するものではありません。気体を膨張させるためには、気体の入っているシリンダー部を燃焼する炎に直接曝します。これで気体は膨張し、高温部と低温部間にあって気体の流れを制御するディスプレーサーという隙間のあるピストンを経由してシリンダーに送り込まれパワーピストンを駆動します。このピストンを動かした気体は、その直後に急速に冷えて収縮します。今度はこの収縮力でピストンを逆方向へ動かして蒸気機関と同じ往復運動を行います。冷えて収縮した気体はディスプレーサーを介して高温部に戻り再び加熱されてこの一連の動作を繰り返します。言葉にすると長ったらしいのですが、実際は極めて短時間のうちに行われます。この模型では5-600rpm程度かなと思います。
温度の高低差がエンジンの効率を決めますからシリンダーには放熱用のフィンを付けているのが一般的です。最近様々なタイプのエンジンが販売され始めたので楽しみです。

「いえ、私が買うってわけではありません。もっと欲しいものが他にあるのです。ークシャーってご存じですか。」(笑)

 内部の気体の移動のタイミングを制御しているのがディスプレーサーです。方式によっては独立したシリンダー筒に納められているものもあります。確かめたわけではありませんが、構造は複雑でも高温低温部と分離したこちらの型式の効率が良さそうです。
内部の気体の選択と密封方法がこのエンジンの課題であると云われています。

 学研の模型は、高温部のガラス管シリンダー内にスチールウールのディスプレーサーが入っています。成る程、メッシュの間から適度に空気が低温側に逃げ、移動とともに空気も押し出します。この動作はパワーピストンの動きと90度?の位相差で空気を移動しています。
さて、熱され膨張した気体はディスプレーサーのメッシュを抜けてパワーピストを押下します。これ以降は上述の通りです。

 <パワーシリンダーに入れたピストン>

 空気の冷却は、ガラス管シリンダーの根元に冷却用のフィンが並んでいます。教材とは思えぬずっしりした重さの金属製です。エンジンの心臓部には力を入れてあることが分かります。機械モデルを完全なものにするには手抜きを許されない勘所がありますが、学研の模型ではきちんと考えてあるようです。全体が平板な構造で大抵大事なところから故障するというのがこれまでの日本の模型や玩具の欠点だったような気がします。しかしながら、このような教材が出てきたことでこれからの玩具や模型というものの作りが変わってくるような気がします。


組立記録・運転記録
 さて、講釈はこのくらいにして組み立てることにします。が、結論から云いますと、組立記録を残すまでもない位簡単に作り終えました。
アルミニュウムの台に説明通り部品を取り付けます。タップが良くない箇所もありましたが、素材が柔らかいので扱いも簡単でした。素直に取り付けるとあっという間に完成状態になります。
ただ、ピストン台座の調整にはちょっと手間取りました。ネジの精度なのか水平がなかなか定まりません。最終調整は発電機に電池をつないで電動機としてエンジンを回して最良の位置を決めるのですが、うまく回ったと思い停止後、再起動してもスムーズに回らぬことの繰り返しです。結局最適の状態には至らぬままにしています。(汗)
説明書に従ってディスプレーサーの位置調整後、とりあえず試運転を始めました。
タンクにアルコール満たし点火します。そうそう、ランプの芯送りのギアが小さいのか芯の上下がスムーズではありません。「まあ、いいか」と思ったもののこの模型を購入する人は、アルコールの扱いになれていない人が多いと思われるので要注意ですね。タンクの密閉度から判断すると炎の見えないアルコール火災について更に詳しく注意すべきでしょう。

 点火して10秒程度?で動き出しました。蒸気機関と運転の感触が異なることは分かっていたものの火を付けたらあっさり動いてしまうとやっぱり戸惑います。
軽やかに動くのですが、明らかに力不足です、発電機は何とか動き赤く点灯するのですが、扇風機は瞬間的に動いて止まります。自動車は動きません。どうやらシリンダーの調整が十分ではなさそうです。いずれ完全なものにしたいと思っています。

<課題は残っていますが、とりあえず組み上がりました。>


まとめ
 喜び勇んで作り始めたスターリングエンジンでしたけどその精度や耐久性にいささか不満が残りました。アスターライブの組立キットと比べての感想なので仕方ない感想だと思いますが、部品の切り抜き面の仕上げとランプの安全性に配慮してあったなら云うことはありません。ともあれ曖昧だったスターリングエンジンのメカニズムを正しく理解できたのは収穫でした。奇異なメカニズムは現代も少しずつ進化しているようで私のような人間にとって嬉しい次第です。

    <全体の姿、冷却用フィンを注目下さい。>

 学研大人の科学シリーズが日本のもの作りにどのくらい効果があるのか定かではありませんが、継続こそ力だと思います。科学少年として育ってきた我が世代ですが、一世代、二世代下ると手を汚さぬ金儲けが推奨された時代になったような気がします。経堂がらくた市での機械への興味のなさを見てつくづくそう思いました。科学を忘れてしまった親の世代が問題でありますので、大人の科学に現在の子供達が親しんで親を越えてくれることを願うばかりです。(2004.12.5)







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