ライブスティーム雑記帳

ライブスティームトラブル様々(2005.8.31)


 機械にはトラブルはつきものである。火と水と高圧で駆動され、連接部の数多い蒸気機関車にはそれぞれがトラブルの要因となりうる言っていいのかも知れない。実物の蒸気機関車は更に想像を絶する条件で運用されているので尚更である。
ライブスティームでは幸いなことに実物と比べると比較的にストレスの小さな領域で運用しているのでトラブルは意外に少ないようである。しかしながら、模型ならではの問題に遭遇することがあるのでこれらをまとめておくことにした。
 私の経験談なのでアスターライブ中心の偏った話になるかも知れないが、これからライブを組み立てようとする方の参考になれば幸いである。

まず最初は大事故のお話を(汗)
 8月の北裏鉄道運転会の翌日、Duchess仲間の栗原さんからピストン棒をクロスヘッドにねじ込んだ部分が緩んだみたいだとメールが来た。「あ、これは大変。」と思った。 というのは、我が家で一番古株のCLIMAXがこの事故を起こしたことがあるのである。 自動車で云えば、ピストンロッドが伸びたためにピストンの上面が上死点でシリンダヘッドに当たってしまう状況だ。 この修理のためピストンやクロスヘッドを外すことになり、この時は三分の二を分解する羽目になった。

  <CLIMAXのエンジン、クロスヘッドが見えます。>



これが起きたのが20年ほど前のYLSC運転会のことである。好調に走行していたCLIMAXが突然がくんと停止した。「何故だ!」と息を呑み調べてみるとピストンがシリンダー内を往復するうちにクロスヘッドとの結合部が緩みピストンの全長がストローク以上になったためシリンダーヘッドにぶつかったのである。
クロスヘッド装着時に適当に締めたことに原因があった。

 その修理に使ったのは平岡幸三氏から「これからのライブ製作には新しい素材を使おう。」と紹介された空気遮断型接着剤ロックタイトである。 固まらせないために容器の1/3ほどしか入れてないので「接着剤が漏れた。」と勘違いしないようにと聞いていた。耐熱温度が摂氏150度なのでライブには最適の接着剤とのことであった。JMRCの例会で実際の加工法と強度実験の講義をしていただき、その実験結果に納得したのである。

 さて、件のトラブル後は、クロスヘッドとピストン棒の組立にはロックタイトを必ず使用し、確実に締め込むことにしている。
20年ほど前にこの修理を施したCLIMAXは、その後何のトラブルも起こさず現在に至っている。

 現在の機関車では構造的に起こり得ないのであるが、阿里山シェイではシリンダーは亜鉛合金製のブロックに砲金?パイプを埋め込んだものであった。購入後2年にしてシリンダーパイプが緩みピストンとともに動くようになってしまいエンジントラブルを起こした。元はと言えば全くの設計ミスであるが、仕方がない。小さなエンジンを分解し、いったん抜き取ったパイプにロックタイトを塗布し埋め込み直し完動品にした。

     <懐かしのシェイのエンジン>

以上の二つが最も大きな事故であり、ライブスティームを始めた頃の思い出でもある。
前者は自分の製造方法のミス、後者はアスターのまだ稚拙だった製造方法に起因していた。

最近20年ぶりにライブを復活し細かいトラブルに遭遇しているが、これらのいくつかをご紹介した。

<組立ミス>
論外なことが多いかも知れないが、これから組もうと思う人の参考になれば幸いである。併せて自分への戒めとする。(汗)

・水圧ポンプは間違いやすい
何と云うことかJUMBOC622と続けざまに給水と注水側のバルブを取り違えて装着した。ほんのちょっとの確認漏れ、いや、集中力の低下から起きてしまった。
水圧ポンプは、台車奥に取り付けるものなので後で失敗に気が付くとせっかく組み立てた機関車の大半を分解せざるを得ない羽目になる。うまく組んだか否かは水を注入する段階にならなければ分からない。十分確認の上で慎重に組み立てる必要がある。
C622の水圧ポンプの給水・注水弁が逆であることに気が付いたのは試運転段階であった。あまりのショックに分解修理する気力が出てくるのに4ヶ月かかってしまった。(笑)
その一年前にJUMBOでも同じミスを犯していたのであるが、全く反省していなかったのである。部品は同じ形状のものが多くスリットの有り無しで区分するという微妙な場合が多い。ちょっと気を抜くと取り違えてしまうのである。

    <C622の水圧ポンプ、この時既に間違っていたとは・・・>

 組立全般に云えることであるが、説明書は熟読しておく必要がある。極端なことを云えば、トイレにまで持ち込んで読んでおくことをお薦めする。組立キットが届いて嬉しさのあまり現物合わせでさっさと組み始める貴方!!。 必ずへまをやりますよ。
そういえばパソコンでも同じことが云えますね。(笑)

・バーナー芯はエネルギーの源
 「こんなもの大したことないや。」と思いがちなのがバーナー芯である。ところが、ライブの基本なのである。燃えが悪ければ涙が出るほど動かない。アルコールの不完全燃焼で文字取り涙が出るのである。
20年ぶりに組み立てたライブ、JNR9600は、芯の整え方を完全に失念していたにもかかわらず説明書も読まず真鍮製のバーナー管に思いっきり詰め込んだのである。芯と云うより栓にしてしまったのだ。従ってアルコールが行き渡るはずもなく、バーナーの役割は果たさなかった。 肝心なのは、説明書に指示された本数をまずは忠実に守り、後日燃焼を見た上で調整することが賢明である。説明書通りに組み直した後は燃焼トラブルは起きるどころか、実に好調な9600に変身し、排気音も勇ましく走り回っている。

バーナーと云うより燃焼系における注意であるが、機関車の機種によってはテンダーに給水した際に溢れた水がアルコールタンクの下に設けられたアルコール溜めに流入するものがある。
例えば、JUMBOなどの小型機ではアルコール溜が密閉されていないのでもろに被害を被ることになる。こうなるとバーナーの分解乾燥しで半日は運転休止となってしまう。
これをJUMBOの試運転でやってしまい参った記憶がある。蛇足ながら運転時の諸注意としてご紹介した。

・ついでにガスバーナー
 組立時の注意というより運転のノウハウといえそうであるが、バーナーが出てきたついでに今まで悩んできた話を紹介する。 個人の好みもあるが、ライブの燃料として扱いづらいのがガスである。C622では新型のバーナーに変更されたのでだいぶ安定したのであるが燃焼加減を習得するまでは戸惑いが多い。ましてや以前のバーナーには苦労したと云う思いばかりである。
からくり鉄道ではC622以外のガス釜は、CLIMAXとRUBYである。後者は適当に走れば良しとして気にしないせいか意外によく燃え走ってくれる。共通の悩みはガス注入量とガスバルブの調整であって毎度のことながら悩んでしまう。
CLIMAXは、20数年の人生を共に乗り切ってきたせいか所有するライブの中で最も愛着のある機関車である。好調な走行に期待を込めて線路に置くのであるが、毎度のことながらバーナーの火が消えることが多く、手こずってきた。
昨年、玉田さんに診断してもらい、ガスバルブが軽すぎて微妙な調整が出来ないので生ガス(つまり液化したままのガス)がバーナーに流れるのだろうと結論になった。
バルブの回転を重くし、注入口にOリングを置き、ガス装填を容易にすることでバーナーの安定度が格段に向上した。たったこれだけで20年来の悩みが解消するのだからノウハウとはすごいことである。

ご存じの方も多いと思うのであるが、改めて教訓を並べてみた。
・ガス注入後の静置。 ガスタンク内の液化ガスをを落ち着かせ、生ガスと呼ぶ液化したガスがノズルから出てくることを防止する。じゃじゃ馬燃焼の原因は殆どが生ガスであろうと推測している。
・ガスバブルの操作を微調整可能にする。軽く回ると開口量の変化が急激であり、生ガス噴出の引き金になってしまうのでネジにヤーンかシール材等を巻き付け意識的に重くする。
・ガス注入弁にOリングを装着しガス漏れを防止する。ボンベの先をOリングに当てて垂直に押し込むのであるが、リング一つ置いただけでガス漏れをせずに確実に注入可能となった。

ガス釜は空焚きするとあっと云う間にボイラーを傷めてしまう。確かに扱いは簡単であるが、安心して運転できるアルコール釜が好きである。今回のC622には大変満足しているが、唯一の問題はガス釜である。欠点のない美人はいないのでまあ仕方ないなとあきらめている。


・ボイラー付属部品の気密漏れ
 ボイラーには様々な開口箇所がある。大型機になればなるほどその数は増してくるが、これらはすべて高温高圧下で漏れを生じさせてはならない。その意識で慎重に組み立てるので漏れを起こしたことは意外に少ない。ところが、ボイラー組立終了と安心した頃で組んだ箇所に漏れを生じるから不思議なものである。木登り名人は降りるときに細心の注意を払うと云うが、私はまだまだ青二才のようである。
C622で経験したのは、最後の工程水位計根元からの漏れである。
ボイラー組立は、説明書をじっくり読んで取り組めばほぼ問題なく進められると思う。 力を入れすぎて馬鹿ネジにしないよう細心の注意を払っていただきたい。

・シール材付けすぎ
 蒸気漏れが心配なので付け過ぎるのがシール材である。シリコン系ゴムを主成分にしているので200度程度の耐熱能力があり、アスターモデルの創世記以来利用されている。扱いを間違うとやっかいなのでミスの無いように塗布しなければならない。最近は爪楊枝で少量を丁寧に塗ることにしている。本来密着する空間に塗られるので極少量でもはみ出しがちである。 このはみ出した僅かなものがゴムの糸くずとなって事故を起こすのである。よくあるのが注水弁のベアリングの浮かせ逆止効果が無くなることである。私は、JUMBOの通風弁先端に詰まって停止時の送風が不能になったことがある。後日修復したところ、古いごく細いゴム片がノズルに詰まっていた。
シール材の塗布目的を理解して取り組めば意外にトラブルは少ないものである。過ぎたるは及ばざるがごとしとはよく言ったものである。

・ボール気密漏れ
私自身はまだ遭遇していないのであるが、このトラブルは意外に多い。
弁座にステンレス製ボールベアリングを置くときは、木の棒を差してコツンと軽く一撃を加えると弁座に馴染み漏れは殆ど起きない。先人の知恵を使うことでトラブルを避けられるのである。しかしながら、これを忘れて組んでしまったこともあるが、たまたま漏れないのは部品の精度が向上したからであろう。後で気づいて冷や汗をかいている。
 もう一つの原因は、シール材の微少な切れ端が付着した場合である。やっぱり、丁寧な組み立てが必要である。

・ネジのねじ切り、馬鹿ねじ
 馬鹿力で締めてよくやらかすトラブルである。結構ヒヤリとすることが多く最近ではDuchessの過熱管を取り付ける際にボイラーに先端を残してねじ切ってしまった。その前工程での加減リンク用ねじ折損もある。 幸いにも事なきを得てDuchessは快走しているが、これまでの部品取り付けの際の馬鹿ネジなど思い出せば数限りない。
事故防止には指先にかかる圧力を読み間違えぬようにすることである。握りの太いドライバは力が掛かりすぎるので小振りドライバー使用に留めている。締め圧力の調整出来るラチェットドライバーが最適であるが、残念ながら先端形状に制約にあってすべての箇所に使えないため、本格運用には至っていない。

・塗装のかじり
 これもよくやらかすトラブルである。これくらいはいいだろうと手を抜いたときに必ずやってしまうのである。ヤットコで外ボイラーに飾りを取り付けているときに食事時間を気にして急いだとか、車体を裏返す時に下に工具があったとか、一番拙いのは合わないドライバーで締めていて先端を滑らしてしまうという不注意の見本のオンパレードである。
とにかくいつでも細心の注意、注意力散漫の時は無理に作業をしないことが大切である。そうそう、飲んでいい気分になると工作をやりたくなるのであるが、実はこれが事故の最大原因のようである。身に覚えありませんか。(汗)


以上が組み立て時のミスである。運転会で走らせることで起きるトラブルもいくつかある。ネジの緩みはさておいて、こんなこともあった。

・加減弁の固着
 JUMBOの運転終了直後にボイラーとエンジンを切り離すために加減弁や通風弁を閉じておいた。圧力がゼロになって緩めるつもるが、談笑で失念し、冷えてから開けようとしたところびくともせず。ボイラーの取り付けねじが回ってしまった。
おかげで加減弁の再取り付けとなったのであるが、再加熱すれば回ったはずなのに焦ったことで余計な作業をやってしまった。皆様方も運転終了後の加減弁や通風弁を堅く締めたまま放置しないように注意されたい。


しばらく運転せず保管する場合の注意は説明書やアスターのHPに書いてあったと思うがその他次のような問題点がある。

・シリコンチューブ類の腐食
 5,6年運転せずに放置していたCLIMAXであったが、ボイラー、エンジン、減速機構は全く問題なかった。ところが、ゴム管がすべて腐食してしまい新品と取り替えることになった。比較的丈夫と思っていたシリコンチューブも弱くなっていたのは意外であった。ゴム管類は消耗品と思って2,3年ごとに思い切って交換することが正しい保管方法と思われる。空気中の硫黄分と反応してゴムは腐食するのであるが、シリコンゴムも同じなんだろうか?

・ボール弁の固着
 このトラブルもよく耳にするが幸いにも重症のトラブルには遭遇していない。久しぶりの運転時にちょっと漏れがあるかなと思う場面があるが、運転しているうちに解消していることが多い。やはり機械ものは定期的に動かしてあげることが一番の保管方法である。あとは、運転後に必ず圧縮空気での運転、給水系への空気の注入で可能な限り水分を飛ばすことにしている。このやり方が意外にもいいのかも知れない。
アスターライブに出会って20数年であるが蒸留水だ何だと意識せず水道水を常用しているが、水垢での悩みは今のところなさそうである。運転回数がまだまだ足りないのであろう。

・安全弁ご注意
 しばらく置いてあった機関車を運転再開する際、誤って安全弁の上部が回ってしまった。片側の安全弁を見て似た位置まで締め、圧力をかけて確認し事なきを得たが安全弁の上部が簡単に回らないようにエナメル等でねじ止めしておくことをお薦めする。勿論新品時はしっかりマークされているが、古くなるにつれてねじ止め効果がなくなっているようである。これも定期的に止めておいた方が良さそうである。大きな圧力計で確認したいのだが、環境がないのでこの点だけ問題を残したままである。


・壊れた機関車
 友人のH君から預かって修理中のC575であるがトラブル要因を様々な情報と故障状況から推測すると、どうやら走行中に第二動輪で位相ずれが発生し、その時点でピンに過大な力が掛かり曲がるとともに連接棒にまで歪みが広がったと思われる。主原因は、動輪軸の緩みではないだろうか。当時はまだロックタイトが普及していなかったと思われるため、当然起こりうる事故である。この持ち主はその理由に大いに悩んだのではないだろうか。
と考えつつ修復を始めた。うまく再生することを期するのみである。
(2005.8.27)







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